『テロルの決算』沢木耕太郎(文春文庫)
主義や理念などの理想に、純粋であり続けることは、美しい。
だが、一方でそれはあまりにも不自然な、人間的ではない歪さを内包している。
なぜなら、人間は本質的に社会的な生物だからだ。
社会――すなわち他者との関係を構築し、維持していく上で、内に秘めた主義や理念といった己の純度は、折衝や妥協によって失なわれてゆく。
理想に純化すれば、するほどに現実との整合性が取れなくなり、精神の均衡を失うだろう。
かといって、内に秘めた理想を放棄して、ただ現実に迎合すれば、主体を失くすこととなる。
他者による変化を受け容れつつも、自己を保ち続けることは、難しい。


昭和35年10月12日、自己の理想に殉教せんとした17歳の少年が、長く現実と戦い続けてきた初老の政治家を、刺殺した。
本書では、その一瞬の交差に至る両者の軌跡を、丹念な取材を踏まえて描写している。
命を懸けてまで、彼らは何を求めたのか。そして、それは得られたのだろうか。
少なくても、真摯に理解しようとする姿勢を示したルポライターだけは得られた。