『恋空―切ナイ恋物語』美嘉(スターツ出版
ケータイ小説として人気を博し、それを書籍化したという小説。
中高生を中心とした若者に支持を集めているとのことだが、なるほどそんな気がする。
いかにも携帯電話メールのような、記号を多用した独特の口語表現で、全編が書き綴られている。主な読者層である中高生からみれば、日常的に使いまわしている口語による文体だけに、さほど違和感なく読めるのだろう。
だが、正真の「小説」として読むと、非常に違和感がある。
内容は、古来から使い古された恋愛物語のアーキタイプを切り貼りした程度で、さほど目新しいものはない。それでも、若者の直感的で無軌道な恋愛は、いつの時代でも奇抜なものとして目に写るものだ。
個々のエピソードだけを取り上げれば、それなりに感動的な箇所もあるが、全体的に冗長な文章構成で、作者の技量の拙さがにじみ出ている。それでも破綻することなく収束していることは、評価に値するのではなかろうか。
といっても、同人レベルでの評価、だが。
従来の出版ルートであれば、とうてい出版できるレベルの文章ではない。
レイプや難病など重いテーマを取り上げてはいるが、肝心の描写が薄っぺらく、まったくリアリティを感じられない。まあ、過激なイベントでドラマを盛り上げるという手法は、実に漫画的で、それこそが作者や主な読者層にとっての“リアリティ”なのだろう。実話を元にしたと標榜する割には、かなり取材が足りていない。
それでも本作品がこれほどまでに支持されたのは、なぜなのだろうか。
それは思春期の若者にありがちな“非日常への憧憬”を上手く形にしたからなのではないか、と思う。
日々手にするケータイというツールで、日々メールなどで読み書きする口語文体で描かれた過激で非日常的なエピソードを読む。それが主な読み手である平凡な日常に倦んだ中高生たちには、臨場感を備えた“リアル”に感じられたのではなかろうか。
もし最初から書籍という形態で発表されていたら、この作品はここまで世に広まることは無かったのではないか、と思えた。