深夜特急(6)南ヨーロッパ・ロンドン』沢木耕太郎新潮文庫
青年沢木耕太郎の長かった放浪の旅が、終わる。
かつて学生の頃、友人から借りて本書を読んだことがある。暇さえあれば、ふらりと旅というにはおこがましい遠足の真似事を行なっていた頃だ。
自分とは比較にならないほどスケールの大きな放浪というべき旅に、胸を熱くしながら読み進めたことを憶えている。
いま、日々スーツに身を包んで、朝夕の満員電車に揺られながら本書を読み返すと、当時とおなじ熱い感情が甦ってくる。
全てを擲って旅に出たいという欲求である。
かつて著者が入社式を前にした通勤路で感じたという逃避願望が、鎌首をもたげてくる。
本書が書かれた当時とは時勢が変わり、どこも様相が一変していることは容易に想像できる。
それでも、旅をするためだけのための旅、というものをやってみたくなる。
しかしまあ、“青い鳥”を追うにはもう歳を取りすぎた。せめて、想いだけでもはるかユーラシアの旅路へと馳せて、満足することにしよう。