『人の砂漠』沢木耕太郎(新潮社文庫)
八編からなるルポルタージュ
その取材対象は様々だ。孤独死した老婆。元売春婦の養護施設。南海の孤島の人々。北海の国境際の漁港。屑の仕切り場。相場師。“不敬罪”の罪人。老詐欺師。などなど。
いずれも社会の主流からは外れた場所に居るアウトサイダーたちである。
それらに対して、深く丹念な取材に基づきながらも、あくまでも客観的な視点で、それぞれの生き様を描いている。
恐ろしいことに、これらが書かれた当時、著者は未だ二十代半ばの若者に過ぎなかった。恐るべき洞察力と文章構成力ではなかろうか。
どの編も素晴らしいルポであったが、とりわけ最初と最後のルポに惹かれた。
孤独死した老女の半生を追う「おばあさんが死んだ」と、寸借詐欺を繰り返した老詐欺師の足跡を辿った「鏡の調書」である。
前者は他者との関わりを拒絶して引きこもり、後者は他者を嘘で騙しながらも積極的に関わろうとして、それでもいずれも独りで死んだ老女である。
彼女たちの半生の軌跡を読むうちに、本書のタイトルである「人の砂漠」という言葉が脳裏に浮かんだ。彼女たちは、その砂漠を渡ろうとして、飢え渇き、道半ばで斃れた漂泊者ではなかったか。
冷徹に彼女たちの生き様を再現した文章の行間に、著者のかすかな共感が透かし見えたようにも思えた。
灼熱の礫砂漠のように乾いた“人の砂漠”で、私もまた独り彷徨いながら、生きていく。