象の背中秋元康(扶桑社文庫)
産経新聞で連載されていた小説を加筆修正した文庫本。
48歳のサラリーマン藤山幸弘が、末期ガンを宣告されたところから物語は始まる。
ガンはすでにステージ4に進行しており、余命は約半年。延命治療かホスピスの二択を迫られるが、彼は第三の選択をする。出来る限り、普段の生活を続けるという生き方である。妻や娘にはそれを隠し、息子だけに告白して、藤山は今まで通りに生活を続けようとする。
やがて藤山は、初恋の人、喧嘩別れした古い親友、昔の恋人など、かつて関わりがあった人びとに会いに行く。自分が生きた痕跡を、彼らの心の内に残すために。
その間にもガンは着実に藤山の身体を蝕み、やがて自宅で倒れ、ホスピスに入院することになる。
読んでいるうちは、情景描写の上手さで主人公に感情移入してしまうが、どうにも展開がことごとく都合良すぎる。特に、愛人と息子の対面や、愛人と妻の遭遇などについては、息子や妻にすんなりと許容されてしまい、あまりに出来すぎた予定調和に拍子抜けしてしまう。
まあ、主人公の各種設定を踏まえて、中年男向けのファンタジーとして考えれば、何とか納得もいくか。


表題はおそらく、死期の近くなった象が群れからはぐれていく様を指しているのだろう。
人間はいつかは死ぬ。しかも必ず独りで、死ぬ。
いつ、どのようにして死ぬかは、未だ知れない。だが、納得ずくで死ぬことは、まず有りえないだろう。それでも、いつかは必ず死ぬのである。
普段は、まず考えないであろう“自分の死”について、ふと考えさせられた。