犯人に告ぐ(上)(下)』雫井脩介双葉文庫
一気呵成に読んだ。時間を忘れ、引き込まれるほどに、実に面白かった。
かつて神奈川県警にあってノンキャリアとしては順風なコースを歩んでいた叩き上げの刑事、巻島文彦。だが、その運命はある事件によって暗転する。
五歳の少年の身代金を目的とした誘拐事件だった。本庁と県警の管轄争いなどのミスが重なり、身代金の受け渡しに失敗し、さらに巻島は犯人と思わしき不審人物を発見するが見失い、結果として少年は殺害されてしまう。事件後、自らを“ワシ”と称す犯人は、警察を嘲弄する犯行声明を残して消える。
巻島は責任を負わされて、記者会見に臨むが、その席上で逆切れを起こし、左遷される。
そして六年の月日が経った。五歳から七歳までの少年を狙った連続殺人事件が起こる。捜査は決め手を欠き、膠着の様相を呈していた。そこに“バッドマン”を称する犯人から人気ニュース番組宛てに声明文が届く。
本事件の警本部長に赴任したのは、奇しくも“ワシ”事件で巻島に責任を被せた曾根警視監であった。事態の打開を図る曾根本部長はある奇策を思いつく。かつて左遷した巻島を呼び戻し、ニュース番組の出演させて犯人“バッドマン”に接触を呼びかける「劇場型捜査」である。
「劇場型捜査」を進める過程で、犯人に理解を示すような言動を行ないメッセージを呼びかける巻島の姿勢に、やがて世間や警察内部から批判の声が声高に上がるようになる。だが、巻島は孤立しながらも信念を貫き通して捜査を続け、やがて犯人を絞る手掛かりを手にする。
クライマックスで犯人“バッドマン”を追い詰める台詞は、まさに圧巻。