『裁判官の爆笑お言葉集』長嶺超輝幻冬舎新書
私の基本思想は、法家に近い。人間の本質は禽獣に近く、理知は容易く欲望に負ける。それゆえに、国家は厳正な法によって運営され、国民は法に基づく教育を受けて、禽獣から人間となるよう矯正されるべきである、と考えている。
では、禽獣から人間と成れず、社会秩序を乱したものは、どうするべきか。
法の定める元、速やかに処せられるべきである。というのが、私の持論である。


日本は法治国家であるが、その法の適用には“むら”がある。量刑における情状酌量という、不確定要素がそれである。
法の適用を裁判官という人間が担当する以上、そのむらは消しがたい。過去の量刑相場という不文律的な基準と世論のギャップ。また、重篤犯罪の処罰における死刑と無期懲役のあまりにかけ離れた量刑差が、裁判官を悩ませる。
本書では、その中身はさまざまな裁判事例において各裁判官が、つい言い添えた言葉が取り上げられている。まさしく失笑を禁じえない迷言もあれば、心打つ真摯な言葉もある。


日本の刑法は根源的に、犯罪者の更正を目的としている。
確かに罪を犯したものが改悛し、劇的な変化を遂げて人間的に成長する事例は、史上幾つもある。だが、悲しいことにそれは少数であることもまた、事実である(特に交通犯罪、薬事犯罪、性犯罪の再犯率はかなり高い)。また最近では、高齢者による生活苦を原因とする窃盗犯罪も増加しているのが指摘されている。
このような時世において、どのような物差しをもって、どのように裁くのか。裁いた後に、どのように刑を執行し、更正を図るのか。
裁判員制の導入など司法制度が大きく変わる今、刑法を含めて司法制度全般を通して、見直すべき時期にあるのではないか、と思う。