感染症――広がり方と防ぎ方』井上栄(中公新書
03年、東アジア諸国を席巻した新型インフルエンザSARS。不思議なことに、それらの国に渡航した日本人の感染者はゼロだった。
本書では、その理由を日本人の清潔好きな生活スタイルにあると推測している。
確かに日本人は清潔さを好む。外出から戻れば手を洗い、うがいをする。室内では靴を脱ぎ、衣類は頻繁に洗濯し、毎日風呂に入る。握手やキスといった挨拶習慣も無く、他者と直接接触する機会も少ない。
この清潔な生活様式が、塵芥を介したSARSウィルスからの感染を阻んだという説である。
人間が集中して居住する都市に生きる以上、不特定多数の人間との接触は避けられず、感染症に感染するリスクからは逃れられない。
本書では、誰でも実践できる感染症予防の対策が解説されている。
最近は報道加熱によって、ノロウィルスやBSEA型肝炎などの感染症への無用な不安が煽られている。しかし、正しい知識を踏まえて冷静に対処すれば、さほど恐ろしいものではない、ということが良く分かる。
風説に惑わされずに自ら知識を深め、判断することが重要ということを知らしめる良書。