東京国立博物館――レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像
来日した“受胎告知”を拝みに行く。
公開から少し経ち連休後なので、空いているのでは無いかと期待していたが、休日だけにやや混雑していた。
やはり、実物を前にすると複製や図版を観るのとは違った感情を抱く。
平成館でも手稿を元にした特別展示が行なわれていたが、これは駆け足で眺めるに止める。ここでの収穫といえば、入り口に展示されている再現された飛行機械の模型くらいだろうか。後は、さほど得るものは無い。
残る未見の名品は“最後の晩餐”だが、いつかイタリアに渡り、生で観てみたい。


常設展示も一通り回っておく。
とはいっても、だいたいピンポイントでの鑑賞となる。
まずは、一階の彫刻展示。ここでは、横須賀に在る伝浄瑠璃寺伝来の薬師十二神将像。鎌倉期の運慶一派の手による躍動感溢れる傑作。
次いで刀剣展示。名物童子切ではないが伯耆安綱作の太刀が在った。また、今回は孫六兼元、長曾根虎徹の打刀なども展示されている。
特に兼元の打刀は、独特の三本杉の刃紋が美しい。
普段は通り過ぎる近代美術の展示室だが、今回ばかりはある絵画の前で棒立ちになった。
上村松園の筆による“焔”である。
怖ろしいほどに、美しい。
正直な話、“受胎告知”を上回る衝撃を受けた。総身に鳥肌を生じた程である。
正しく名画と呼ぶに値する作品である、と思う。


ほとんどの感情――例えば、喜びや怒り、悲しみや驚きなどは、伝聞でも共感によって、ある程度は再体験が可能である。
しかし、感動だけは、体験した者しか味わえない。
だから定期的に、“本物”を観にいくのである。