『ひとは情熱がなければ生きていけない――勇気凛凛ルリの色』浅田次郎講談社文庫)
人間を万物の霊長たらしめているのは、言葉を保有しているからである。
ある人間の人となりを知るには、その発する言葉を聞け/記す文章を読めば良い。
言葉には、その者の理知と情熱が宿る。


本書は、著者がいかにして作家になったか、その起源と過程を記したエッセーである。若くして小説家を志しながら、紆余曲折の果て40歳でようやくデビューしたその半生を辿っている。
デビューまでの道のりの半ば、小説に傾けた情熱だけは、常に変わらなかったという。


活字離れと世に騒がれるようになってしばらく経つ。それでもその実、現代とは空前の文章文化時代にあるのではないか、と思っている。
インターネットと携帯電話の普及にともなう技術の進歩と文化の変容によって、媒体を紙からディスプレイに置き換え、ネット掲示板、メール、ブログ、SNSなどなど、そこかしこにおいて文章は溢れている。
だがその中において、世人に読まれんと情熱を傾けて紡がれた言葉は、どれだけあるのだろうか。
言葉を扱うものの端くれとして、その姿勢に敬意を感じるとともに、闘争心をかき立てられる。そして、より人間らしく生きるために、今日も言葉を考える。