『負け犬の遠吠え』酒井順子講談社文庫)
先日読んだ『枕草子REMIX』の著者の代表作。だいぶ前にずいぶんと話題に上った本であるが、著者に興味をもったので、今更のように手に取った。
いや、これは確かに話題にもなるわ。
本書では、どんなに美人で仕事が出来ても“30代以上・未婚・子ナシ”の女性を、独断的に“負け犬”と分類している(実際には、オスの“負け犬”についても言及されているが)。当の“負け犬”に分類された人たちは、さぞ激昂したことだろう。
冷静に、自分を客観視することは、実に難しい。
各々の“負け犬”なりに色々と言い分はあるだろうが、古代から連綿と続く生物として当たり前の役割=生殖を果たせない者は、性別に関わることなく“負け犬”であることは疑いない(生物的な機能に問題がある場合は、もはやどうしようもないが)。
奥付を見ると初版が03年10月と3年半くらい経過しているが、おそらくオス、メス関わらずに“負け犬”は今なお増加しているだろう。
本文中にもあるように都市文化は、“負け犬”に優しい。各地において、三浦展の言うところの“ファスト風土化”が進行するにつれて、“負け犬”の分布もまた全国化していくだろう。あるいは、もうしているかもしれない。
この非婚・少子化問題とは、たぶん突き詰めていくと、戦後に押し進めてきた自由主義のひとつの敗北の結果なんだろう、と思う。
生活スタイルの自由、恋愛の自由、結婚の自由、などなど。自由を認めすぎたゆえに、社会の基本である家族構築の慣習が薄れ、その社会的義務を履行させることが出来なくなってしまった。
そして、“負け犬”としての生活スタイルが、男女ともにすでに確立してしまった以上、その後続は今後も延々と続いていくだろう。
本書の軽妙なユーモア溢れる文面の奥に、黒々とした深い淵がぽっかりと覗いて見えた。