『乱世の英雄』海音寺潮五郎(文春文庫)
史伝随筆集。
あとがきにて荻生徂徠の「いり豆をかじりつつ古今の英雄豪傑を罵倒するのは人生最上の快事である」との言を引用しているが、その快事を愉しむには資格が要る。
史上に名を残した傑物たちの生涯の軌跡を辿り、彼らの生きた時代背景を踏まえた上で、独自の見解を立て得る知性があってこそ、その英雄豪傑の評価が行えるからである。
本書の著者には、その資格がある。
いずれの項においても、広く深い知識と鋭い視点、明瞭な見解が散りばめられ、非常に面白い。
特に「鶏肋集」において述べられている、現代人の常識で史上の事跡を読み解こうとする歴史文学への批判は、全面的に賛成したい。その当時の事象は、その当時の常識で計るべきだろうと思うのだ。
常識とは、世相、技術、風俗などの大衆的知識レベルに依存する共通認識である。時とともに常識は移ろう。不変の常識なぞは、有り得ない。
さて、未来において史伝として取り上げられるであろう現代の常識は、どのように罵倒されるのだろうか。少し、興味がある。