『平安妖異伝』平岩弓枝新潮文庫
時は平安、一条帝の御世。摂政兼家卿の五男にして若き公卿、中納言道長はふとしたことから神秘的な少年楽人、秦真比呂と知り合う。その出会いをきっかけに、道長は様々な怪異に遭うこととなる。
後に摂関政治の最盛期を築くことになる藤原道長が主人公として設定されているが、当時の道長はまだ若く、氏の長者である父や後継者となる二人の兄が健在であるために、権力とは程遠く、気概に溢れた颯爽たる青年貴族として描かれている。
様々な怪異に立ち向かう道長を助けるのが、不思議な楽童、真比呂なのだが、その手に握られる得物は種々の楽器であり、怪異を鎮める法は楽の調べである。
なんとも雅である。
作中では、貴賎を問わずその日常のことごとくが迷信に支配され、厄を避けるため陰陽の理に従い生活していた平安期ならではの、現実と幻想が混同した世界がよく描かれている。
この時代は、フィクションでもあまり取り上げられることのないステージだけに、非常に面白い作品である。