ローマ人の物語19 悪名高き皇帝たち[3]』塩野七生新潮文庫
惰弱な皇帝として、構成の史家から指弾を浴びた四代皇帝、クラウディウス帝が本巻にて語られる。
冒頭のタイトルは、紀元48年の元老院議員の大量欠員の際、中〜北部の属州ガリアからの議席要求を受けての元老院会議の席上にてクラウディウス帝の発言の一節である。
悪妻メッサリーナによる放埓な振る舞いを黙認した。挙句、後妻に入ったアグリッピーナに暗殺された。などなど、確かに惰弱なエピソードには事欠かない皇帝ではあったが、この時の演説は、まさしく「ローマ文明が、人類に遺した教訓の一つ」と賞賛する相応しい。
つまり、かつてカエサルの夢見た、被支配者である他民族のローマ化、ローマ帝国運営への参加を承認する政策を再興したのである。
なんと素晴らしい高潔で寛容の精神に溢れた民族であったのだろうか。
現代に置き換えるのならば、植民地出身の人々に本国の議会への参画を許可したに等しい。
ローマ人の考えた市民権が、同じ“志”を共有する者に与えられるべきである、という考え方が、如実に示されるエピソードといえよう。