『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』藤沢周平(文春文庫)
ここ最近、藤沢周平に嵌っている。この作者の書く時代小説は、長編の時代物、武家を主人公とした剣客系、庶民の生活の中のエピソードを切り抜いた世話物系、そして捕物系と分けられると思う。この中でも、剣客系と捕物系が個人的にはヒットしている。
本作は上の分類で言うところの捕物系に属すが、作者が多くの短編で描いてきた世話物系の悲哀と融合して、読後になんとも言えない余韻を残す。
主人公、神谷玄次郎は腕が立ち、頭も切れる凄腕の同心ながら、過去のある事件によって母と妹を失い、それが元で辣腕の同心だった父が失意のままに死んだことが影を引き、役目を半ば突き放したような虚無的な生活を送っている。
彼は幾つかの事件を経て、ついに家族を失った元凶ともいえる過去の事件の真相に肉薄する。その果てで、遂にひとつの結論にたどり着くが……。