『エマ(5)』森薫(BEAM COMIX)
エマとウィリアムが予期せぬ再会を果たし想いを確認しあった前巻のラストから一転して、本巻ではウィリアムの両親、リチャードとミセス・トロロープことオーレリアの若かりし頃、その出会いから始まる。
社交界という世界は非常に閉鎖的で変化を好まない。その世界に足を踏み出した成り上がりのジョーンズ家若き当主リチャードのたどった道筋は、困難かつ辛苦に満ちた道であったことは想像に難くない。ジョーンズ家の身代を上げるために、作中で語られるように最愛の妻オーレリアすら犠牲にしている。
決して言葉にはしないが、彼はこのような茨の道筋を息子であるウィリアムには辿らせたくは無いのだろうなぁ。
一方、何の気もない坊ちゃんであるウィリアムは恋に浮かれてハワースくんだりまでエマを追っかけて足を運んでしまう。恥も外聞も捨て去ってウィリアムに飛びつくエマの姿は、本巻の白眉。ドロテア夫人ではないが、思わず「ファンタスティック!」と口走りたくなるくらいである。
しかし、同時代の人間の視点で語るならば、どう考えてもウィリアムはエレノアを娶った方が良いに決まっている。実際、エレノアは良い子だし。何よりも、“そういう時代”なのだから。エマがジェントリ階級に上がれない以上、ウィリアムがジェントリから落伍するほかに、彼ら恋人たちが添い遂げる方法は無い。あらゆるものを犠牲にして、ウィリアムはその道を選べるのだろうか?
次巻以降の展開が楽しみである。