『風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記 上・下』小川一水(ハルキ文庫)
かつて、TRPG用シナリオとしてある都市の開闢から滅亡までを描いた物語を構想したことがある。
だが、考えていたことをものの見事に、より精度を上げて実現されてしまった。
もっとも、私が考えていた以上に、面白いので大満足だ。


本書は、神聖ローマ帝国時代、14世紀ドイツの辺境を舞台とした仮想歴史小説である。
騎士ルドガーは父に疎まれ、辺境のモール荘の代官として派遣される。そこには寂れ荒れ果てた農村があった。そして、そのささやかな村にすら流賊の襲撃予告がもたらされる。
この地で、ルドガーは不思議な女レーズと出逢う。遥かな昔、共和制ローマ末期の武将の名を挙げるその女は、この地にかつて栄えたローマ時代の都市の再現を求める。
ドガーはその求めを引き受け、かねてより考えていた新たな都市の構想を実現するべく、活動を始める。そして、その都市は“レーズスフェント”と名付けられた……。
なお、このレーズなる女は地球外から訪れた知性体である。彼女は影響力を行使するが、街を勃興させるのは、ルドガーをはじめとする人の意志と力によってなされていく。
利益によって人心は動くが、それ以上に心意気によって結びつく。なんとなく、和田竜の『のぼうの城』が脳裏をよぎる。
惜しむらくは、本書は“興亡記”だが、勃興のみしか語られていない。いつか滅亡にいたる話も、ぜひ読みたい。