『すばらしき愚民社会』小谷野敦新潮文庫
大衆を“愚民”と指弾する評論。
しかし、本文においてその批判の矛先はもっぱら、各メディアに盛んに登場する“有識者”たちに向いている。
独断と偏見に凝り固まった“エセ”知識人たちを痛烈に批判し、大衆におもねる彼らの言を良しとしない、著者の直言には頷ける点が多い。
だが惜しむらくは、最終章の「禁煙ファシズムと戦う」が、単なる愛煙家の感情論に落伍してしまっている。喫煙習慣に惑溺している様を公言しても、ただ見苦しいだけだ。
ただし、煙草に限らず酒や、クルマの運転などに制限を掛けるべきとの意見には、同意できる。自制心に乏しい人間に、惑溺性のあるモノを扱わせるべきではない。
不注意な煙草の火、暴飲による理性の低下、法規を守らないクルマ(自転車も含める)の運転、などなど、いずれも危険極まりない。
残念ながら、自制心によって自らの行動を制御できない類の人間は、決して少なくないのが現状だ。もっと規制を強化しても良い、とは思う。
まあ、発言力のある各業界の反対で、まず不可能なのだろうけれど。