「押し」と「引き」の話。
元々は演劇用語であるが、TRPGにおけるセッション進行技術としても良く使われる用語であろう。
「押し」とは、PCたちを用意した状況に“誘導する”ことを、「引き」とは、PCたちを用意した状況に“誘導されるようにする”ことを指す。文字通り、「押し」はアクティブで、「引き」はパッシブな誘導方式である。
私の経験則上、「押し」は強制的な印象を抱かせるために、慣れてきたプレイヤーにはやや敬遠されがちである。対して、「引き」は自由選択の余地があるように見えるため、好評であることが多い。
逆に慣れていないプレイヤーにとっては、「押し」は方向性が明確で分かり易く、「引き」は何をすれば良いか分からずに途惑うことだろう。
シナリオの傾向として、「押し」に寄れば、否応なしの直線的な一本道に近づき、「引き」に寄れば、分岐が増えて道に迷うことになる。
GMの用意するシナリオの志向性によっても変わるだろうが、プレイヤーとしては個人的に「押し」と「引き」のバランスはとんとんぐらい、むしろ「押し」気味くらいがちょうど良いのではないか、と思う。
しかし、「引き」のシナリオは、分岐という変化の幅を持たせられるので、GMとしてネタの仕込み甲斐がある。
かく言う私も「引き」を多用するGMであったりする。
「引き」のシナリオの場合、PCが選ぶ「引き」が予測できないので、それぞれに対応したネタを仕込む必要がある。そのネタを考えるのは楽しく、そしてセッションに当たっては、手間暇掛けて用意したネタ――イベントを実施したい欲求に駆られることも多々ある。
それでも、セッション時間という制限がある以上、冗長なシナリオは好まれない。時には用意したイベントをばっさり捨てて「押し」てみる決断も必要だろう。
セッション前の準備は入念に、セッションに臨んではそれに囚われず、果断に当たるべし。