『彼女はたぶん魔法を使う』樋口有介創元推理文庫
すごい久しぶりに手に取ったミステリ物である。
小説を選ぶ際に、興味をもったタイトルは、軽く十数頁ていど本文を読み飛ばす。序盤を軽く読めば、主人公に感情移入できるかどうかが判る。感情移入できなければ、最後まで読む気がしないので買わない。
本書は引き込まれたので、じっくり読む気になった。
元刑事の柚木草平は、刑事事件専門のフリーライターとして月刊誌に寄稿する傍らで、元上司にして恋人の吉島冴子が回してくれる事件の調査を行なう私立探偵として喰っている。
今回持ち込まれたのは、女子大生島村由美の轢き逃げ事件の調査依頼である。車種も年式も判明しているにもかかわらず、車も犯人も挙がっていない。さっそく、依頼者であり被害者の姉、香絵を訪ねると、轢き逃げが計画殺人ではないかとの疑惑を打ち明けられる。そして、柚木が調査に掛かると、次の殺人事件が発生する……。
さて、この主人公であるライターにして探偵の柚木草平。ことあるごとに美女に出遭う。で、本人曰く「いい女がからんだ事件には妙に闘志が湧く体質」なのである。美女を前にすれば、つらつらと台詞が飛び出す。
「君に会ってから、俺は他の女がみんな糸瓜に見える」
気障だ、キザ過ぎる。歯が浮く、やや芝居がかった台詞回しだが、そのことごとくが相手の女性を立てる台詞ばかりなのである。そして、相手をその気にさせても決して手を出さない。
そのストイックなハードボイルドさ加減が、たまらなく良い。久しぶりに当たりを見つけた気分。