『悪人列伝 中世篇』海音寺潮五郎(文春文庫)
時代は平安中期から室町初期までをカヴァーする。取り上げられる“悪人”は6名。藤原兼家梶原景時北条政子北条高時高師直足利義満である。
そもそも、何をもって人を“悪人”と指弾するのか。
本書では、その人物の生涯の軌跡をたどり、為した史実を踏まえて、何が後世において“悪行”とされたのかを読み解いている。
ことの善悪とは、大体において主観的に決め付けられる。その判断の材料となるのは、世間に流布している情報、倫理感に基づく心情などである。
そうして“悪人”と断じられた本人は、後世において“悪行”と指弾されることを、果たして“悪”であると自覚的に行ったのであろうか?
本人が良かれと思って為したことでも、時と場の違いによっては、また結果論として“悪行”と断じられることもある。
史上の人物、事跡を感情で痛罵するのは、容易い。しかし、冷静沈着に直視することは、とても難しい。