『悪人列伝 古代篇(新装版)』海音寺潮五郎(文春文庫)
歴史小説というと、時代考証の綿密さを下敷きにした独自の史観によって司馬遼太郎の名がよく挙がるが、海音寺潮五郎もまたその考証、考察力は広く、そして深い。
活躍した時代がより古いため、史伝という文芸形態が確立していなかったということもあり、今日あまり注目されていないが、個人的にはとても好きな作家である。
さて本書だが、歴史小説でもあまり取り上げられることのない上代の、特に古来から“悪人”とされた人物6名をその時代背景から掘り起こし、実像を見つめ直している。
本書の最後を飾る平将門藤原純友の両名が起こした乱は、一歩間違えれば朝廷の存亡に関わったとの考察には、同感である。存外、危うい均衡の上で、歴史は築かれていると思うのだ。
この二人を描いた『海と風と虹と』も、ぜひ復刊して欲しいものだ。