『王朝貴族物語 古代エリートの日常生活』山口博(講談社現代新書
律令国家において、全ての人民は国家の定めた仕事に服していた。今で言うところの公務員といって差し支えないだろう。
本書は、中央官庁である朝廷の閣議に参画できるわずか20人にも満たない公卿から、地方国主である国司、受領を占める四位、五位の中流貴族、そしてそれら顕職を目指して上りつめようとする六位以下の下級貴族たちの生活、風俗、思想を紹介している。
源氏物語』や『枕草子』で描写される宮廷生活や、『古今和歌集』などに収録された恋歌から、平安貴族たちはただ恋にうつつを抜かして暮らしていたと考えがちだが、そんな訳が無い。
現に藤原氏北家が摂関政治を確立するまでに、古来からの続く氏族の大半が策に嵌められて没落している。それどころか、同じ藤原氏一族内でも、祖を同じくする南家、式家、京家すら、北家によって駆逐されてしまった。
そのような権謀術数の蔓延る朝廷で生き残るには、卓抜した知力と豪胆さ、そして運気が必要であっただろう。まあ、血縁による後ろ盾と運だけで公卿になれた大納言道綱や左大臣顕光みたいなのも居るには、居たが……。
それはともかく、一見優雅で、しかし気の抜けない貴族ライフを、それでもしたたかに彼らは生きてきた。その生き様が、原典からの現代的な妙訳を織り交ぜて解説されている。
やはり、一度この時代を使って、遊び倒したいものだ。