『平安の春』角田文衞(講談社学術文庫
相変わらず、頭の片隅で平安期モードが常駐中。
本書は、平安中期〜末期の人物や生活様式などについての小論や随筆をまとめたものである。
史学者にしてはかなり軽妙な文で読みやすく、実に面白い。
「師輔なる人物」の項では、藤原師輔がいかに“いと淫わし”い男であったかを克明に説明している。また娶った三人の内親王がことごとく夭逝するのを称して“皇女殺し”とすら呼んでいる。『大鏡』や『栄華物語』では温厚篤実な聖人君主として扱われる師輔も、まるで形無しである。
もっとも優等生面した謹厳実直で清廉な人物よりは、荒淫なほどにエネルギッシュで権謀術策に長けた奸物の方が、人としてみるには面白いのも事実。本書のお陰で、師輔という人物に魅せられてしまった。
また良質の平安時代ネタが蓄積されることとなる。いつか、上手く使いたいものだ。