藤原氏千年』朧谷寿(講談社現代新書
日本史上、最大の氏族と言えるであろう名門、藤原氏の系譜を初代、中臣鎌足(614〜669)から末裔、山科言継(1509〜79)まで、古代から近世までの歴史上でそれぞれがいかなる役割を担い、どのような生活を行なってきたのかを、概略的に紹介している。
先日の『アルターライン』以降、頭に平安期モードが常駐しているので、つい本書を手に取った。
藤原氏が婚姻を通じて天皇外戚となり、政治の中枢の座に居座り、摂関政治を引いたことはよく知られている。しかし、その過程で他の名門貴族を陰謀によって葬り去ったであろうことは、幾つかの事変の記録に残っているが、その詳細の多くは歴史の闇の中に沈殿している。ここら辺は、真相が不明なだけに、幾らでも想像の余地を挟む隙がある。
だがしかし、件の『アルターライン』では、だいたい朱雀帝(在位930〜946)から後冷泉帝(在位1045〜1068)の御世あたりをターゲットとしているらしい。当時の藤原氏氏長者を見れば、すでに北家独走体制に入っており、朱雀帝の頃は、菅原道真のライヴァルであった時平の実弟、忠平であり、後冷泉帝の頃は、道長の嫡子、頼通である。
摂関家華やかなりし、まさに平安時代と呼ぶに相応しい絢爛な宮廷文化の咲き誇った時代である。
それでも、平安京には暗い影が付きまとう。
そもそも遷都して最初に行なった行事が、早良親王の御霊鎮めというのだからおどろおどろしい。さらに、天神となった菅原道真やら悪霊左府、顕光などなど、摂関家によって排斥され失意の内にこの世をさり、御霊と化したとされるものも多い。
史実を追うだけでもネタには困らない。というか、史実なのにファンタジーの要素が入っているいい時代なのだが、どうにもイマイチ、メジャーにはなりにくい。惜しい。