『蒙古の襲来』海音寺潮五郎河出文庫
昨年あたりから新装版による文庫の復刻が続いており、実に喜ばしい。
海音寺潮五郎の史伝は、良質である。というのも、本文中にて出典が明記されているので、後に自分で掘り下げて調べる上で参考になる。
本書は、いわゆる元寇を主題とした史伝である。
当時の鎌倉幕府や朝廷について、日蓮について、大陸の蒙古帝国について、などなど、文献に基づいた情報を踏まえ、作家ならではの想像力で補いながら、当時の状況を活写している。
12〜14世紀あたりの世界情勢は、非常に興味を引かれるものがある。なかでもモンゴル帝国の膨張は、ユーラシア大陸全土に衝撃を与えた。
極東においてモンゴル帝国の侵攻を止めえたのは、当時日本とベトナムのみである。
ともに指導者の毅然たる態度と、果敢な抗戦がそれを可能にした。日本の場合、とかく台風による天佑――神風による奇跡と捉える向きがあるが、著者はそれは違うと指摘する。武士たちの勇猛な戦いが、蒙古軍の船上への撤収に導き、それが台風による大損害をもたらした、というのだ。その考えはおそらく正しい。
また、日蓮に対する評価も納得できる。日蓮は純然たる宗教家であり、決して愛国者では無い。
しばらく、海音寺潮五郎の著作をあたることとする。