『アウトニア王国人類戦記録5 でたまか 長嶺来光篇』鷹見一幸角川スニーカー文庫
いよいよ、長く続いてきた“でたまか”シリーズも最終巻を迎えた。
本巻では、異生物ザナックスと人類の存亡を賭けた乾坤一擲の最終攻防戦が描かれる。
それは、かつてローデス軍や帝国軍との戦いのような丁々発止の心理戦的な駆け引きはなく、感情のない異質な群体知性をもった異生物との、ただひたすらに身を削り合う底なしの消耗戦である。
もはや生還の望みはなく、後方に残した家族や仲間、どこかの誰かの未来を守るために身を挺する兵士たちの自己犠牲の戦い。マイドと共に戦ってきた多くの軍人たち、ザナックスを研究し対策を模索した研究者、ジャンク屋の技師、従軍医師、徴兵された民間人、そして電子人格たち。それぞれの立場の人々の視点から、この人類存亡を賭けた戦いに臨む様が語られる。
戦争という死と隣り合わせの極限状態で、あらゆる感情が剥き出しに晒され、それでも最後に残ったそれは、人間の矜持であり善性である。おそらく、作者はそう確信し、そう表現したかったのであろう。
私もそうあって欲しいと思う。もっとも私の持論は、荀子韓非子に近い考え方ではあるが(というか、むしろ法家)。
本作品はライトノベルに分類される。そのため、最後の明確な“敵”を、人間にしなかったのだろう。これは正解だと思う。おかげで、ファンタジーとして最良の結末を得ることができた。私は本作の結末を、とても気に入っている。
ファンタジーの結末は、めでたしめでたし。と、相場は決まっているのだから。