東照宮

東照宮は、神君徳川家康公を祀った霊廟である。自分は徳川家にはなんら縁もゆかりも無いので、むしろ名工左甚五郎の遺した造作を眺めに行くようなものである。実際、当初は絢爛と輝いていたであろう彫刻の数々も風雨に洗い落とされ、埃にまみれて今や見る影も無いが、作りの見事さはいささかも落ちてはいない、素晴らしいものだった。
券買所で教えてもらったのだが、宝物館では面白い展示をしているらしい。なんでも、東照宮宝物館は、どういう縁かは良く知らないが、英国王立武器武具博物館と提携しているらしい。その交流の一環として、幾つかの展示物を借り受け、展示しているという。武具マニアの血が騒ぐ。ぜひとも拝まなくてはなるまい。
行ってみると、展示物の点数自体は大したことない。ほんの数点が展示されているに過ぎない。だが、日本において欧州の本物の甲冑を生で見る機会は、少ない。それだけに拝観料を払った甲斐はあるというもの。
実際の鎧というべき展示品はわずかひとつのみ。だが、それで十分である。推定、1600年代清教徒革命期の火縄銃兵の装束がそれで、いわゆるハークィバスアーマーと呼ばれる胸甲と、バフコートと呼ばれるなめし革のコートである。資料の図では見知ったものだが、実物を拝むのとではだいぶ違う。
常設展示もひととおり回る。残念ながら国宝の助真国宗の太刀は展示されておらず、がっくりと来るが、福岡一文字派の太刀が拝めたので良しする。
後の展示品で特筆すべきものは、渾天儀だろう。渾天儀とは本来は天体の位置測定に用いる器具だが、天体模型として作られたものも少なくない。この宝物館に所蔵されているものは後者の模型だが、家康への献上品だけあって装飾が上品で良いモノだ。