NHKにようこそ!滝本竜彦(角川文庫)
今、社会問題にもなっている“ひきこもり”を題材にした小説。主人公がまさにひきこもり状態になって4年経過したある日から物語は始まる。
主人公、佐藤は突然に大学通学を止め、下宿しているアパートに閉じ篭り、以降大学を中退して4年間の間、ひたすら親の仕送りに頼りながら引きこもり生活を続けている。
このままではいけない、何か職について自立しなくてはいけない、そう思いながらも佐藤は求職活動すら満足に行えず、ひたすら社会に背を向け、滑稽なほど無様にあがきながら現実逃避を続ける。


読んでいて胸の奥に鈍い痛みを感じてならなかった。
実際、引きこもりには至らなくても、日常生活において何らかの障害にぶつかり、逃避することを夢想することはままある。
自分の努力不足、無能を棚に上げて、何かに八つ当たりすることもままある。
自分は悪くない、全ては自分の才能、仕事を認めない世間が悪いんだ。そう思いたいこともよくある。
でも本当は、自分が動かなければ何も変わらないことも、よく分かっている。だから、どんな展望も無く、下らない日常がだらだらと続こうと、現実と折り合いを付けて生きていくのだろう。そんな自分に“佐藤”を笑うことはできない。