上記の「WIZARDRY RPG OE」用のシナリオ案。

□#3.迷宮紀行 (Odyssey in the Labyrinth)

■背景設定
北海に面した港湾都市ヴァンクール。『闘争期』からこの地に在るという古い城塞都市である。
かつてこの街は北部同盟の主要港として、大森林から伐採された良質の木材や沖合いで獲れる豊かな魚介類を南部の諸王国に提供してきた。港には回航する貿易船や遠洋に繰り出す漁船が溢れ、城門からは朝夕に荷馬車が出入りする。街は、常に喧騒と活気に満ちていた。
しかし、北海沖合いより迫ってきた『氷霧の結界』の侵蝕が、次第に街を取り巻く環境を変えてゆく。
近隣の森林には凶暴な魔獣が闊歩するようになり、樵や猟師ですら足を踏み込めぬ魔界となってしまった。外海の海流は渦巻き、沖合いへの航行は危険なものとなった。やがて航路すらも満足に計れなくなり、漁はおろか湾の外へ船出することすら困難になってしまった。
その異変は、林業と漁で生計を立てていたこの街の命脈を、まさに断つようなものだった。
商品の無くなった交易商たちは、この街を去っていった。代わりに、森から出現する魔物の襲撃を怖れ、付近の農村からは多くの避難民が街へと押し寄せた。仕事を失った水夫や漁師たちは、酒場に入り浸り、安酒に酔う。
多くの者たちが失業した上で、喰うや喰わずの難民の流入は街の治安は悪化させる。さして広くも無い城塞都市が、スラムと化すのにそう時間は掛からなかった。


停滞と退廃に緩やかに腐ってゆく。そんなある時、街中で目新しい発見があった。
切っ掛けは、ある捕り物だった。日常的に発生する窃盗。市場の店先から喰い物をかっぱらった無業者が、衛士に追いかけられた。たまたま店主から賄賂を貰っていた衛士は、珍しく職務に忠実に犯人を追い詰める。哀れな無業者が必死に逃げた先は、街の地下に敷設された下水道だった
『闘争期』に建築されたこの都市には、今となっては珍しい下水道が完備していた。下水道は街の地下を縦横に走っており、多くの犯罪者たちがそこに逃げ込んでいた。
追い詰められた無業者も、何とか逃げ延びるべくそこを目指したのだった。しかし、地下に不案内な無業者は、早々に迷い、遂に袋小路に行き当たった。そして、“不幸にも”巧妙に隠されていた扉を見つけてしまった。
追いついた衛士が目にしたものは、開け放たれた扉と更なる地下へと続く階段。そして耳にしたものは、階下から聞こえる断末魔の悲鳴と何かを咀嚼する鈍い音だった。
地下に隠された秘密の階段の噂は、たちまちの間に街の隅々まで知れ渡った。噂を耳にして、暇を持て余した腕自慢の男たちが何人も、得物を片手に階段を降りていった。面白半分に暗闇へと潜った大半の者たちはすぐに姿を消し、ごく僅かに用心深い者だけが還って来た。
命からがらに還って来たものたちの語った話によると、その地下道には凶暴な魔物が潜んでいるという。彼らは自分の命だけでなく、僅かではあるが価値ある戦利品をも拾ってきた。迷路のように入り組んだ地下道には、恐ろしい魔物と高価な財物が隠されている。
降って沸いたようなその情報に、燻っていた男たちは色めき立った。腕っ節と幸運があれば、地下から宝物を持ち帰ることが出来るかもしれない。金さえ有れば、こんな狭く汚い街からおさらばできる。
最初は素人に毛が生えた程度の探索だった。しかし、探索を進めれど地下道に果ては無く、遭遇する魔物の凶悪さは増すばかり。しかし、見つかる宝物も価値が上がってゆく。やがて、噂を聞きつけた近隣諸国の冒険者たちも、この街に訪れ、探索行に参加し始める。それでも、その地下道の果ては未だ見つかっていない……。